中国語「馬馬虎虎」(マーマーフーフー・まあまあふうふう)の意味と語源

中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」

という言葉は聞いたことがありますか?

中国の簡体字で書くと"马马虎虎"となります。

今回は、この言葉をご紹介します!


この言葉はNHK番組「チコちゃんに叱られる!」でも紹介されました


この記事だけ突然アクセス数が増えたのでどうしたものかと驚きましたが、2022年3月25日(金)に放送されたNHK「チコちゃんに叱られる!」という番組で、この「馬馬虎虎」が取り上げられたからだと知りました。


この番組のMCは岡村隆史さんということで、くしくも岡村さんが映画の主演を務めて有名になった「モウマンタイ」という言葉についての解説もしています。よかったらご覧ください。



中国の成語・慣用句


中国語には、日本と同じように多くの「成語」「慣用句」があります。

このうち「成語」は故事に基づいたもので、中国語で"成语" [chéng yǔ]と表します。


この"成语"の表現で


马马虎虎 [mǎ mǎ hǔ hǔ]


という言葉があります。


発音は再生ボタンで確認できます。



「馬馬虎虎」の意味


馬と虎という勢いのある動物の組み合わせながら、日本語の語感からすると、「マーマーフーフー」という音は何だか気の抜けたような感じがしますね。


この言葉には


浅はか


大雑把


ずさんな


いい加減


のような意味があります。


ここから転じて


適当に


まあまあ


そこそこ


という意味にもなって広まりました。



「もしかして日本語の「まあまあ」は、この「馬馬虎虎」が語源では?」と思いましたが、結論から言うと関係ありません。


この理由は後ほど書いていきます。




ただ、一般的な中国語として「まあまあ」を表現するには、


还可以 [hái kě yǐ] [ハイカーイー]


が適切です。




英語では、careless, casual, so soという表現が近いものです。



例文


他做的事都马马虎虎的

[tā zuò de shì dōu mǎ mǎ hǔ hǔ de]

彼のすることはすべていい加減だ


このように、形容詞のように使うことができる慣用句ですね。




「馬馬虎虎」の語源


この「馬馬虎虎」という言葉は、中国の小説家 茅盾 [máo dùn] (ぼう じゅん)によって書かれた《子夜》 [zǐ yè]という作品に登場します。

1930年代の作品ですので、「慣用句」といっても比較的新しい言葉といえます。


この気の抜けたような語感とは裏腹に、実は結構恐ろしい物語が起源になっていますので、要約して紹介します。


宋の時代にある画家がいました。

いつも心の赴くままに描いてしまうので、何を描いているのかわからなくなってしまいます。

ある時、この画家は虎の頭を描きあげました。


すると、ある人が来て、馬の絵を書いて欲しいと依頼しました。

そこで画家は、先ほど描きあげた虎の頭に、馬の体を付け加えました。


来た人は、これが馬なのか?虎なのか?と聞いたところ、

画家は「馬馬虎虎」だと答えました。


来た人はこんな絵はいらないと言ったので、画家は絵を居間に飾りました。

画家の長男はこの絵を見て、これは虎だといい、次男はこれは馬だといいました。


時は流れて、長男は狩りに出かけました。

その時、長男はある人の持ち馬を虎だと思って撃ち殺してしまいました。

この画家は、馬主に賠償金を支払う羽目になりました。


また次男が出かけたところ、虎に出くわしました。その時、馬のように乗ろうとして、虎に咬み殺されてしまいました。


画家は非常に悲しんで、絵を焼き払い、自責の念を詩に書き留めました。「馬虎の絵、馬虎の絵、馬でもあり虎でもある。長男は馬を撃ち殺し、次男は虎に咬まれてしまった。こんないい加減(馬虎)な絵は焼き払う、自分から学べることは何もない。」


この物語の内容の良し悪しは別としても、この深刻な教訓を描いて以来、「馬虎」という言葉が広まりました。



冒頭のイラストは、この物語からのものです。


原画はニャラメロさんがフリーで提供されているもので、とても素敵なイラストを提供されています。

いくらフリーで利用規約内といえども、こんなコラージュを作ったのは気が引けています。

あえて本人に謝る勇気もないので、こちらにリンクを貼らせていただきます。

ぜひ、ニャラメロさんの愛らしいイラストの数々の原画をご覧ください。


ニャラメロさんの愛らしいイラストはこちら




日本語の「まあまあ」の語源は中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」ではない理由


日本語の「まあまあ」と中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」は、現代では似たような感じで使われることもありますが、日本語の語源ではありません。


「まあまあ」を辞書で調べると


「極端に良くも悪くもないさま。」(日本国語大辞典)


「十分ではないが、一応は満足できるさま。」(デジタル大辞泉)


とあります。


この用法としての「まあまあ」は、日本国語大辞典によると


1898年に小説家の小栗風葉(おぐり ふうよう)が「恋慕ながし」という作品の中で「渡者とは違って堅さうにも見えるから、まあまあと思って辛抱もしてゐたのが」


と記述しています。(発表は1900年5月)


この時点で、先述の中国の1930年代の小説《子夜》よりも昔になり、当時の《子夜》での「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」には、日本語の「まあまあ」の意味はありませんでした。


このことから、日本語の「まあまあ」の語源は中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」ではない、ということができます。



また、この意味の「まあまあ」についても「「まあ」を重ねた語」(デジタル大辞泉)との説明があります。


「まあ」の意味のひとつに、「完全にそうであるとはいえないが、ほぼそうであると認めつつ、ある状態をさし示す語。ともかく。多く消極的な評価や反発する気持のある場合に用いる。」(日本国語大辞典)があります。


この言葉が「まあまあ」につながったという確証はありませんが、この用法は江戸中期にあたる1709年の「軽口頓作」(かるくちとんさく)という雑俳集に「ごろじゃませ・仲人の目にはまあ美人」という表現が見られます。


この「まあ」や「まあまあ」の語源については、確かなものは見出すことはできませんが、日本語の「まあまあ」は中国語の「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」の語源ではないことは明確になったと思います。




「トラウマ」の語源は古代ギリシア語で虎や馬とは無関係


日本語で「心的外傷 (しんてきがいしょう)」のことを「トラウマ」と呼ぶことがあります。


元々は古代ギリシア語の"τραύμα"で、これがドイツ語の"trauma"にもなった後、英語などにも広まりました。


これらの意味は単に「傷」を指す言葉でしたが、オーストリアの心理学者・精神科医 ジークムント・フロイトの影響によって「精神的な傷」を指す言葉として知られるようになりました。


動物の「虎」や「馬」とは無関係ですので、「馬馬虎虎」とも無関係です。


ちなみに英語では、「精神的な」という意味を持った単語と組み合わせて"psychological trauma"といいます。



このブログも「馬馬虎虎」にならないよう、これからもしっかり調べながら書いていきます。


今回もお読みいただき、ありがとうございました。




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